パンチラ追って知らない街へ

すべて作り話です

叶わない夢の話

トワイライトエクスプレス

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かつて大阪駅-札幌駅間を運行していた寝台特急トワイライトエクスプレス。たそがれの、薄明かりの急行列車。それに乗って静かな夜の街を駆け抜ける。目が覚めてふと窓の外を見ると、月明かりに照らされた街並みが目にもとまらぬ速さで目先を通り過ぎていく。再び眠りにつくと心地よい電車の揺らめきですぐに意識が遠のいた。到着のアナウンスを合図に、寝起きのおぼつかない足取りでホームに降り立つと、そこは見知らぬ土地で、駅の向こう側に待ち構える朝焼けに目をくらましてしまう。札幌の街には一度も行ったことがない。突き刺す寒さに身も凍えるのだろうけど、遥か遠くから一人で訪れる街の景色は輝いているにちがいなかった。もちろん寝台特急も経験がない。トワイライトエクスプレスは、残念なことに老朽化と人々の交通手段の変化によって、もう二度とお目にかかることはできないらしい。私はこんなふうにして、時折憧れのトワイライトエクスプレスに乗って旅に出るさまを、想像してみたりする。深夜に見える電車からの景色は、寝台の寝心地は、そこで出逢うはずだった人々の行く先は、確かめたいことばかり思い浮かぶのに、わたしはもう、叶えることができない。

高校三年生 軽音部所属 文化祭前の男の子

あと少しで有志の発表があるのにドラムのメンバーが一向に揃わなくて毎日放課後、3階の空き教室でメンバー募集のビラ作りに勤しんでいる。ギターのたくやが最近持ってきたパンクロックバンドの新譜を爆音で鳴らしていたら、コンコンとノックが聴こえる。小柄でショートボブの女の子が凛と立っていて、ドラム希望だから入部させてくれないかと志願した。俺たちはみんな快く受け入れて、それからはもう練習漬けの日々だった。授業中に先生の目を盗んで音楽を聴いて、放課後は最寄りのガストで山盛りのポテトを分けながら発表の日のセットリストを組んだ。たくやんちが近かったからみんなで集まって好きなバンドのDVDを見ることもしばしば、土日バイトして貯めたお金で、スタジオに入り浸った。毎日音楽のことばかり考えていたおれたちの青春のことは、大人になった今でもよく思い出す。あの日たくやが聞かせてくれたバンドが解散してから10年になるけど、まさか復活するなんて想像だにしなかった。久しぶりに物置きの隅に佇むステッカーだらけのエレキギターを鳴らしてみたけど、チューニングを怠っていてまるで音が合わない。あの日、文化祭で披露した曲はしばらくのあいだ俺たちの学年で流行りに流行ったんだよな、後夜祭でたくやとゆきちゃんは付き合ったらしいけど、その後のことは詳しく知らない。事の真相については、いつかまた会った時に。みたいな甘酸っぱくて汗臭くて青春をぎゅうっと濃縮した軽音部男子高校生になってみたかった。