パンチラ追って知らない街へ

すべて作り話です

スプリング・ハズ・カム

四月が来てもわたしは原宿の裏通りにある花屋の前で100パーセントの男の子と運命的にすれ違う見込みなどなく、それどころか75%の恋も85%の恋もする兆しすらなかった。かつて100パーセントだった男の子のSNSは2日に一度覗いていて、この野郎もうここまできたら彼が彼にとっての100パーセントの女の子と結婚するその日までネットートーカーを全うしてやる。木っ端微塵にあなたへの思いが砕け散るまでずっと見届けていれば、その頃には、きっとわたしも。

食べ物の前で無様に非力なわたくしは、特に見せる相手もいないせいか六キロも太った。就職活動なんか早々に嫌気がさしてきて、説明会も履歴書もろくに行かず書けず、狭い部屋で自己嫌悪にまみれながらのたうち回っている、そんな春。桜はどうやら今週末には見頃をむかえるのだそうです。

先日、めちゃくちゃ嫌いな女と偶然最寄り駅で真正面から鉢合わせた。逃げ場なんてなかった。嫌いな女を嫌いたらしめる過去の出来事なんて、まるで綺麗さっぱり忘れ去ったかのような満面の笑みを浮かべ手を振ってきて、拍子抜けしてしまった。人を嫌いでい続けることは、好きでい続ける以上のエネルギーを有するとはよく言ったもので、互いに許したわけでも許されたわけでもないけれど、別にもう、正直好きでも嫌いでもなんでもなかった。他人以上友達未満な関係といえば収まりがいい。わたしも対抗して笑顔で手を振り返してやればよかったんだけど、さすがに突然の出来事でうろたえた。あの状況で笑顔をひねり出し更には手まで振ることができる精神力に恐れおののく。ものすごく露骨に、嫌な顔をしてしまったのは大人気なかった。もう二度と鉢合うのは御免だ。

味覚にしろ、自身の体験にしろ、苦味を味わえるようになってきたのは大人に近づいた証だということでここはひとつ。コーヒーがおいしい、バイト帰りの一服がなによりの至高。少しずつほんの少しずつだけど、自分が大人に変わりゆく手応えを感じている。四年目になってやっと大学に在籍して本当に良かったと気づき始めたと思えば、400万円で手にした自由は残すところあと一年もないらしい。自堕落で愛おしい、宙ぶらりんの毎日を嚙みしめて。