パンチラ追って知らない街へ

すべて作り話です

椿町発展街①


PM:6:00 コンビニのトイレで化粧が崩れていないか隅々まで確認する。よし、ちいさく声に出して気合いを入れた。

古ぼけたネオンのアーケードをくぐり抜けてピンク色に光る店の入り口の手前、客引きの男の人を横目に会釈する。あのウィンドブレーカーだけじゃ風邪ひいてしまわないだろうか、なんて同情も数歩先には忘れていた。

10cmのピンヒールで急すぎる階段を注意深く駆け登って、扉を開ける。鼻をつく染み付いたタバコとほこりの匂いが充満した店内に到着すると、開店時間まであと10分だった。

履き古された色とりどりのピンヒールが散らばる更衣室を、足で乱暴に掻き分けながら自分のロッカーの前に辿り着く。ロッカーの中を弄って花の模様が施されたドレスを手に取るといそいそと着替え始めた。

最近太ったせいだろうか、後ろのファスナーを閉めるのには少し時間がかかった。名刺とハンカチと煙草を小さいポシェットに入れて、ライターを下着と胸のあたりに挟み込む。すぐ取り出すことができるように。

更衣室を出て最後にもう一度、姿見で自分の体をよく見てみる。ドレスを着てしまえばわたしは立派なキャバ嬢で、源氏名である マリ に一瞬でなれてしまうのだ。
野暮ったい普段の姿から、これほど派手に変身する様はまるで悪者と戦う勇敢な美少女戦士のようで、有名なあのセーラー服のアニメの主人公がするポーズを真似てみたりして。

現実は禿げ上がったおっさんたち相手に笑顔と愛想を振りまいてお酒を注ぐ、田舎のキャバ嬢なんだけど。生唾を吐き捨てるようにポーズを真似たままでいる鏡の中の自分に言い聞かせる。鏡の前でふざけていたら開店時間が迫っていることをすっかり忘れていた。

PM7:00店内には一昔前のEDMが大音量でかかっていて、どこか不機嫌そうな目をした女の子たちがタバコを吸いながら隅で待機している。

ここは椿町発展街、クラブやラウンジがひしめきあう県内随一の歓楽街。あのアーケードの向こう側、暗闇に灯されたネオンの店で働く、おんなのこたちの物語。

f:id:rccp50z:20170915150555j:image