パンチラ追って知らない街へ

すべて作り話です

プチガトーの後ろ姿を

わたしは物心ついた時からケーキが行儀よく並ぶショーケースを、裏側から眺めていた。明るくライトで照らされながら規則的に並ぶ、きらめくケーキの後ろ姿を見ることがだいすきだった。名前も知らないクラッシックの音楽が常に流れる店内は、道路に面して店…

はたらく

毎日こてんぱんに叩きのめされている。今まではどうにかして逃げ道を探して避けてきたおおきな壁にまっこうから向かっていかなければならない。それは想像を絶するほど高く分厚く、なんならトゲとかもあって。まだその壁を登る手段も得てないわたしは壁のす…

春になるまで帰らない

あなたとの夜を、何度想像しただろう。あなたとの夜を何度、想像しただろう。あなたはとっくの昔にもう人のもので、手には入らなくて、手に入れてはいけなくて、だからこそ欲しくて、でも決して多くを望んだりしなかった。 だから、二人きりの時間を過ごそう…

ピンクネオン

月末にはここをやめるの。毎週火曜日に訪れる常連のその人はお酒を飲む手をピタリと止めて、わたしの顔を覗きみた。それは、本当に?兼ねてからわたしはただのアルバイトにすぎなくて、一生をここで従事するつもりはないということを伝えていたはずだったけ…

昨夜みた、悪夢の話

そこはわたしの家で、確か夜で、両親は眠っている。突然猛烈な吐き気に襲われてわたしは暗闇の部屋を這いずってトイレに辿り着く。そのトイレは六畳ほどの部屋の奥にポツンとある洋式。便器を抱え込んだままうずくまってずっとずっとずっと吐き続ける。酒を…

白いブラウス溶かしてメロディ

始まる前のあの独特な雰囲気は何ものにも例え難い。今まで感じたことのない空気に気圧されてしまいそうだった。緊張感に似ているものの、どこか浮ついた空気を肌に感じて。ほんとうは一人で見に行こうなんて大それたこと思っていたけれど、きっと入り口のネ…

椿町発展街⑤

モテるでしょう、顔を見て目を合わせるたび男の人は皆、そう言う。そんなことないですよ、わたしは謙遜を試みる。夜の仕事に従事するおんなのこたちは皆、自分の価値を知っている。それが年を取るたびに磨り減っていくものだということを知らない。価値のあ…

椿町発展街④

椿町発展街① 椿町発展街② 椿町発展街③ 先輩からの着信に気づく。それは二次会が解散して帰路につこうとしていた矢先の出来事だった。へべれけの先輩が言う「華木、まさかもう帰ろうとしてんのか?夜はまだこれからだろうが!」帰りたい、と真っ先に思ったけ…

梅雨生まれ

かかってこい、まだ見ぬ未来。 と、今日の自分めがけて啖呵をきってから早一年。本日をもちましてわたしは22歳です。今年もたくさんの祝福を全身に浴びながら、このブログを更新します。毎年わたしが産まれた日を覚えていてくれて、ありがとう。 もちろん…

椿町発展街③

椿町発展街① 椿町発展街② 好きな男の前でとことん従順になってしまう女なんて、この世の中に掃いて捨てるほどいるんだろう。そんな女どもの気が知れない。なのに、いつからだ、わたしも気がつけばそちら側の女だった。 ずっと伸ばしていた自慢の黒髪を鎖骨あ…

椿町発展街②

椿町発展街① 「だってそうでもしないと、 別れてくれなかったんだから。」 丁寧に整えられた爪と、細長い指のあいだにタバコを持って、深く吸い込んで吐き出す煙の中にみえたあまりにも悲しい表情に、おもわず見惚れていた。 アザミさんの横顔が好きだ。高く…

スプリング・ハズ・カム

四月が来てもわたしは原宿の裏通りにある花屋の前で100パーセントの男の子と運命的にすれ違う見込みなどなく、それどころか75%の恋も85%の恋もする兆しすらなかった。かつて100パーセントだった男の子のSNSは2日に一度覗いていて、この野郎もうここまでき…

はるぎらい

どうして年度の変わり目と別離の季節を、春にしたのか昔の人の方針に納得がいかない。出会いの季節でもあるなんて言うけれど毎年あたらしい出会いに比べて、別れのほうがよっぽど多いとは思いませんか。そもそも出会いと別れを同じ季節にするなんて、どうか…

きみのヒーロー③

きみのヒーロー① きみのヒーロー② 毎日を健やかに過ごしていくことも、いくらお金や時間をつぎ込んでも惜しくないと思える生き甲斐があることも、信頼できる友人がたくさんいることも、なんだかんだものすごく将来に希望を持っていることも、なにひとつ悪い…

きみのヒーロー②

昼間、人と会っている時や用事を済ましている時は全然平気。いつも通りで、何も考えてない。なのに夜になると、夜が更けると、どんどん不安になってきて 罪悪感に苛まれてきて、今日この日を楽しく健やかにすごしてしまったことがひどく後ろめたく思えてしま…

きみのヒーロー①

ありきたりな感情だけど、悪い夢だったらいいのにっておもった 昨日の夜は眠れなくて頭が痛かった。朝からお母さんが電話に向かってむせび泣いていて現実みたいだった。今朝 憔悴しきっているであろう神奈川の叔母さんの元へ向かうためにお母さんを駅まで送…

利他主義とバクシーシ

先日読んだ記事にあった 印象的な一節。 ちょっとした親切に感謝の念を抱いたのなら、あなたも誰か身の回りの困っている人に、同じようにちょっとした親切を施してください。いや、別にお金をあげてくれとかそういう意味ではないです。自分のできる範囲で、…

椿町発展街①

PM:6:00 コンビニのトイレで化粧が崩れていないか隅々まで確認する。よし、ちいさく声に出して気合いを入れた。古ぼけたネオンのアーケードをくぐり抜けてピンク色に光る店の入り口の手前、客引きの男の人を横目に会釈する。あのウィンドブレーカーだけじゃ…

猪突猛進クリスマス

今日のためにあらかじめ用意されていたような失恋ソングを延々と聴きながら 冬の星空を眺め歩いてるわたしはまるで よくあるバンドのMVに出てくる女の子みたいだし、だれか曲にしたほうがいいんじゃない?メリーメリークリスマス、みんなはどんな夜を過ごし…

アルティメットバカの定理

人様にご迷惑をおかけしない そう決意した2日後に先輩の車の中に定期をわすれて わざわざ届けに御足労をかけさせる。時同じくしてその日11万円もする身につけているものの中で最も高価な財布を道に落とすが 親切なおじいさんが家まで届けてくださる(三ヶ…

31025日

今朝はやく おじいちゃんが亡くなった。 思い出話をきいてほしい。 おじいちゃんはわたしが物心ついたときからずっと耳が遠かった。それはもう手の施しようがないくらいに、補聴器などなんの意味も成さないほどに。用事でおじいちゃんのもとへ電話をかけたと…

ある夏の歴史的瞬間

そうそうこれだ この暑さ これが夏だった わすれかけていた去年の夏がよみがえるような暑さがやってきた 気づけばセミはせわしなく鳴いているし 朝起きたら汗だくだし これでもかというくらい冷えた麦茶がおいしい 街へ出れば容赦なく降り注ぐ 焼け付くよう…

自慢の芝生の作り方

隣の芝生が青すぎてまぶしい— カワ (@rccpz) 2016年7月6日カワ on Twitter: "隣の芝生が青すぎてまぶしい" 隣の芝生は青いという他人のものはなんでもよく見えてしまう様子を表すことわざがある。ツイートは少しわたしなりの解釈で意味を誇張しています。 わ…

バースデーガールの憂い

「ハタチを過ぎたら誕生日がたのしみではなくなってしまう」 散々人生の先輩たちから、そうおびやかされてきた。 20歳と書いてハタチと読むの "本気と書いてマジ" みたいで好きだった。もう一生、名乗ることはできない。日本のエライ人たちへ告ぐ、各年齢…

1ドルの夜景とプラネタリウム

あれからもう3年も経つんだ。付き合っていたら3年か。3年という月日がどのくらいの長さかといえば、中学、高校生だったらとっくにもう、卒業の時期ですね。 元気にしていますか?ちゃんとご飯を食べていますか?毎日健やかに生きていますか。ただでさえ細…

オムライスの妙味

先日 5年ぶりくらいに叔母さんに会った わざわざ関東から足を運んできてくれた 久しぶりの叔母さんは目尻にシワがふえた程度で あとは何も変わっていなかった すこしばかり緊張したけれど 天真爛漫なそのひとは5年前と同じ明るい笑顔で迎えてくれた お母さ…

時間薬(じかんぐすり)

時間すごい こころの傷に効くなによりの薬とよく言うけれどまったくもってそのとおりであった 時間のおかげで みるみるうちにあのときあいた大きな穴は塞がり 日常を取り戻し 活力まで湧いてきた。そう 時間は特攻薬である。 なにより時間が経つごとにそのこ…

ハイライトのメンソール

最近 人生史上最低のつまらない男の人に裏切られたから振ったんです だけどもっとつまらないのは自分だったなって気づいてしまって 毎日毎日退屈でしかたなくて これはいままでずっと誰かと繋がっていたから 繋がりがなくなったことによる一時の虚無でしかな…